第0話 ありがとう

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「俺は行かない」  だから、リュカにとってその答えは、突き離されたようにも感じたか、最初から分かっていた答えでもあった。  マオは相変わらず、リュカなど居ないかのように、自分の倍近くあるアンドロイドを引きずり、懸命に運んでいる。 「これからどうする」  いつまでも、『ナイフラヴァー』で生計を立てるわけにはいかない。取り締まりが厳しくなり、年々客足が遠のいていた。数名だが、軍に保護され連れて行かれた子どもも居る。マオが道を示してくれるなら、リュカはそれに従うのも悪くないと思っていた。 「衡準庁に入る。俺を助けてくれた人と、約束した」  ロストカラー街の人間が国の組織に入るなど、夢物語だ。金銭面の問題はもちろん、偏見や差別はいつまで経っても、何をしようともなくならない。生きていく事でさえ、「普通の」人間の何倍も難しい。それを十分解っていて、それでも折れずに無条件に信じられる拠り所があるマオを、リュカは羨ましく思った。 「それで、ロストのみんなが安心して暮らせる国にしたい」  リュカも同じ事を考えていた。他者の私利私欲の為に利用され、壊れていった子どもを何人も見てきた。リュカの弟も、その内の1人に過ぎない。ロストカラー街の子ども達は、なにもかも、もう十分奪われた。これからは色々なものを与えられ、手に入れていく時代でなくてはならない。リュカとマオの目的は同じだ。道は違うが、いつか合流するだろう。ひとつ、違っている事は、リュカの「みんな」には、アンドロイドが含まれていない。 「……いつでも入れるように、お前の場所、空けておくから」 「リュカ、気をつけてね……運ぶのは……」 「手伝わない。じゃあ、急ぐから」  明日もまた会うかのように、いつも通りに別れた。
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