第二話 奴らの目的

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「ボクは忙しいんだ。用があるなら手短にね」    無邪気極まる陽気な声。実に子供らしい声。  しかしその声で、母船から遠く離れたこの場所にいるネトリさえもたった一言で殺すことができる。  絶対的な権利を持つ幼き支配者。  そんな字面から感じる印象とは大きくかけ離れた圧力を、通信機を通してネトリは感じていた。   「ターゲットを見つけました」 「本当? そいつはどこ?」 「今、目の前に居ます」    ネトリの表情は真剣そのもの。  その彼の頬を伝う汗が緊張感を演出している。   「なら連れ帰るか、その場で始末して」 「不可能です。現状、ワタクシから彼に危害を加えることはできません」 「命令の影響?」 「その通りです」 「……推定番号は?」 「十三。死の際に瀕した割には何もしてこなかったので」 「なら良いんじゃない? 放っておけば」    可愛らしい声ではあるが、節々に冷静さが見て取れる。  子供らしさと大人っぽさが同時に存在しているかのような、そんな不思議な印象を受ける。   「それより、尋問されて情報を話した――なんてないよね?」 「もちろん。王がワタクシたちへ下した事前命令の恩恵により、ほぼでっち上げです」 「ちょっとは話したってこと?」 「十三王子がお前らの祖先だ……というくらいは」 「ふーん。ま、それくらいはいっか」    ネトリはホッと胸を撫で下ろした。  ここで怒られることも想定していたからなのだろう。   「あ、そうだ。なんか二番隊配下の一小隊から連絡が途絶えたみたいだし、ちょっと様子を見てきてくれない?」 「……畏まりました」 「じゃあ、詳細は担当者に。また後で」 「ハッ」    向こうから見えていないことは分かっているだろうが、敢えてネトリは敬礼した。   「……変わりました。次の目的地点を今から転送します」  自身の持つ端末に送られてきた情報を確認し、そして薄気味悪い笑みを見せるネトリ。   「次は手応えありますかねぇ」 「それは分かりませんが、十と十一、次いで十二は最優先ですので、発見次第即連行を願います」 「分かってますよぉ。任せてくださいぃ」    通信機を切って、ネトリは寝たままのエイリを見下して言う。 「……カスで良かったですねぇ」  ――クックックと気味悪く笑いながら、ネトリはクネクネ歩きでこの場を去っていった。
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