第一話 前哨的絶望

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 目が覚めた。  見えるのは見慣れた天井。昨夜消し忘れたであろう照明が光り輝いている。  それから逃げるように窓へと視線を落とすと、さっきまでの惨事など影も形もない、いつも通りの平和な空が広がっていた。が、   「ハァッ、ハァッ」    突然、思い出したかのように動悸が起き、そしてあの光景がフラッシュバックする。   「何だ、さっきのは?」    胸を抑えながら体を起こし、頭を埋め尽くす恐怖を鎮めるべく頭を必死で抑える。  しかしそれでも、空を覆っていた天蓋が脳内をも覆う。   「あんなもの、実在する訳がない」    幼少から人並みに不思議体験は経験してきたつもりだが、UMAの類は信じない主義だ。  幽霊はまあ、半信半疑といったところか。  とにかく、僕はあんなものが現実にあるとは考えてはいない。  だけどあの夢は妙に生々しく、まるで見てきたかのように展開されていた。   「それでも僕は信じないぞ」    信じるも何も、言ってしまえばただの夢だ。  しかし、ここまで追い詰められる何かがあの夢にはあったということなのだ。  だからだろうか、背筋に感じる悪寒は去り時を見失っていた。  ……それでも、   「とにかく、学校に行かないと」  感じる嫌な予感に構っている暇はなく、学生としての本分は果たさなければならない。  どうせ夢。  そう思えたらどれだけ楽なのだろうかと考えつつ、僕は震える手で制服へと手を伸ばした。  ――着替え終わっても凍る背筋はぎこちなく、それが下半身にまで影響しているせいか足取りは非常に重い。  たった一段降りるだけでも息切れが起きる始末で、日常生活すら危ぶまれるほどだ。   「何でこんなに胸騒ぎが……?」  止まらない動悸を必死に抑えようとするけれど、拍動の感覚は短くなるのみ。 「駄目だ。少し休もう」  手すりを支えにして階段の中腹辺りに座り込み、数回ばかり深呼吸をする。  そして同時に、あれはただの夢だと自己暗示をかけて、少しでも気分が楽になるようにする。 「……よし、ちょっとはマシになったぞ」  と言いつつ息は荒いけれど、回復に向かっているのは確かだ。  一応胸に手を当て心拍が落ち着いていることを確認し、再度手すりを支えにしながら立ち上がる。 「早く行かないと」  一段、また一段と進むに連れて足取りは軽くなっていく。  それを実感して、降りながら一度ホッと息をついた。
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