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「――うわぁッッ!」
跳ねるように飛び起きて、止まらぬ鼓動を抑えるためにと必死に胸を掴む。
そんな僕に、クスクスと笑い声が届く。
「どうした? 何か怖い夢でも見ていたのか?」
先生の皮肉混じりの質問が聞こえ、現実に戻ったのだと自覚した。
そしてすぐに、さっきのが夢で良かったと胸を撫で下ろしながら安堵する。
「どれだけ怖かったのかは知らないが、減点は減点だからな」
「……はい。申し訳ありませんでした」
どっと笑いが巻き起こって、僕を嘲笑する勢力が盛り上がる。
しかしそれでも、今の僕にはあれが夢で良かったという事実しか頭になかった。
――結局その先生の授業が終わって、未だに早い鼓動に苦しめられている僕に、笑いながら近付く二つの影。
「どうしたんだいエイリくん。そんなに怖い夢だったのかい?」
「おしっこチビったりしなかった?」
と吹き出したくなる口を抑えてモゴモゴと聞いてくる彼らに、僕はある種の哀れみのような感情を持った。
確かにこれはただの夢だ。気にする方が間違っている。
だけど、夢で良かったと思えるくらいの恐怖体験をした者にとっては、それを経験したことのないものからの蔑みは馬鹿らしくてしょうがない。
だから哀しそうに笑いながら、僕は彼らに答える。
「僕は大丈夫。心配してくれてありがとう」
「はあ? 心配?」
「そんなのする訳ないじゃん!」
もちろん。そう否定されることも考慮した上で。
「おいおいお前ら。よって集って何やってんだ? エイリが困ってるじゃねぇか」
「いやこいつが、俺たちがこいつを心配してるだなんて調子に乗りやがったから……」
「へえ、心配じゃないならさっきの言い方は何が目的だったんだ? まさか馬鹿にしてたって訳じゃないよな?」
「…………」
彼らは黙ってしまった。図星だったということだろう。
いや、わざわざこんな風に追い詰めるまでもなく彼らが僕を馬鹿にしているのは明白だったけれど、スドウは黙るしかない状況を作ってくれた。
……まあ、彼らよりも高い、スクールカースト最上位に位置する彼だからこそなせる技なのだが。
「どうなんだ?」
口調は優しいけれど、その根底からはえも言われぬ圧力のようなものが漂っていた。
そしてついに。
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