第一話 前哨的絶望

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「ほ、本当は俺たちもエイリを心配してたんだよ。な、なあ?」 「そ、そうだよ。どんな夢を見たかも気になっていたし」  彼らは折れた。  余りにも情けない光景ではあるが、それが賢明と言わざるを得ないのだろう。 「じゃあ、俺たちはもう行くよ」 「あ、ああ」    最後まで情けなさを醸し出しながら、彼らは逃げるように去っていった。  ……軽くスカッとしたのは言うまでもないが、これで終わらないのが彼らの根性の腐り具合をよく表している。 「さて、厄介払いは済んだところで……」 「いつもありがとう」 「……おいおい、いきなり何だよ改まって」 「別に、ただ言いたかっただけだよ」     本当の本当に感謝ばっかりだ。  それは紛れもない事実なのだから。 「まあとにかく、一体どんな夢を見たんだ?」 「今朝の夢の続きで、奇妙な動きをするやつにしつこく追いかけられる夢」 「それはまた災難な」 「スドウはそんな目に遭わなかったのか?」 「まあ、その時の俺はまだ学校にいるらしくて、立て籠もる準備で大忙しって感じだったからな」 「つまり、惨劇を間近では見てないと」 「ああ。でもまあ、逃げ延びてきたやつの話を聞いた限り、エイリと同じような状況だったと思う」 「なるほど……」  夢の中でもスドウはヒーローだったということか。  ……それに比べて僕は本当に無様だったな。  夢ですらカッコつけることは許されないということなのだろうか。   「いずれにしろ、起きる訳ないけどな」 「だと良いんだけど」  そこで話を締めくくって、僕たちは次の授業の準備を始めた。  ――結局今日一日はあの夢ばかりが頭を埋め尽くしていて、少しも集中することができなかった。  眠気は流石にもう来なかったけれど、それでもほぼ寝てるも同然の状態だったためか、今日はいつにも増して注意されてしまった。  でもまあ、そんなことを後悔として引きずる余裕もなく、僕は家への帰路をたった一人で歩んでいた。  ……まあ、それはいつも通りとして、 「それにしても、本当にスドウは凄いな」  スポーツ万能で人当たりの良い性格。勉強は微妙なのが玉に瑕だけど、それが近寄り難さを和らげている。  そんな彼は大体の生徒の憧れであって、スクールカーストを上り詰めるのは必然に過ぎなかった。 「それに比べて僕はまさしく正反対だな」
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