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「ほ、本当は俺たちもエイリを心配してたんだよ。な、なあ?」
「そ、そうだよ。どんな夢を見たかも気になっていたし」
彼らは折れた。
余りにも情けない光景ではあるが、それが賢明と言わざるを得ないのだろう。
「じゃあ、俺たちはもう行くよ」
「あ、ああ」
最後まで情けなさを醸し出しながら、彼らは逃げるように去っていった。
……軽くスカッとしたのは言うまでもないが、これで終わらないのが彼らの根性の腐り具合をよく表している。
「さて、厄介払いは済んだところで……」
「いつもありがとう」
「……おいおい、いきなり何だよ改まって」
「別に、ただ言いたかっただけだよ」
本当の本当に感謝ばっかりだ。
それは紛れもない事実なのだから。
「まあとにかく、一体どんな夢を見たんだ?」
「今朝の夢の続きで、奇妙な動きをするやつにしつこく追いかけられる夢」
「それはまた災難な」
「スドウはそんな目に遭わなかったのか?」
「まあ、その時の俺はまだ学校にいるらしくて、立て籠もる準備で大忙しって感じだったからな」
「つまり、惨劇を間近では見てないと」
「ああ。でもまあ、逃げ延びてきたやつの話を聞いた限り、エイリと同じような状況だったと思う」
「なるほど……」
夢の中でもスドウはヒーローだったということか。
……それに比べて僕は本当に無様だったな。
夢ですらカッコつけることは許されないということなのだろうか。
「いずれにしろ、起きる訳ないけどな」
「だと良いんだけど」
そこで話を締めくくって、僕たちは次の授業の準備を始めた。
――結局今日一日はあの夢ばかりが頭を埋め尽くしていて、少しも集中することができなかった。
眠気は流石にもう来なかったけれど、それでもほぼ寝てるも同然の状態だったためか、今日はいつにも増して注意されてしまった。
でもまあ、そんなことを後悔として引きずる余裕もなく、僕は家への帰路をたった一人で歩んでいた。
……まあ、それはいつも通りとして、
「それにしても、本当にスドウは凄いな」
スポーツ万能で人当たりの良い性格。勉強は微妙なのが玉に瑕だけど、それが近寄り難さを和らげている。
そんな彼は大体の生徒の憧れであって、スクールカーストを上り詰めるのは必然に過ぎなかった。
「それに比べて僕はまさしく正反対だな」
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