《23》

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   夜霧が体を芯まで冷やした。道の両側には濡れた背の低い草が生い茂っている。 正重が背中を支えるようにして、隣を歩いている。 「もう、ここらでよいぞ、正重」 刈谷の手前あたりで正信はそう言った。 「刈谷の町までお供いたします」 正重が頑迷な眼差しを正信に向けてくる。正信は苦笑した。 「刈谷まであと半里(約2キロメートル)もない。一人でも充分だ。お前は上和田へ戻れ」  正重はそのまま家康に仕える事になった。正重は正信ほど嫌われてはいないが、松平の家臣たちから迫害を受ける可能性はある。だから正信は正重を上和田で大久保党に仕えさせてもらえるよう、家康に嘆願したのだ。 「これから、どちらへ向かわれるのですか」 「特には決めておらんが、都へ向かおうと思っている」 「京ですか」 「ああ」 正信は頷き、夜空を見上げた。黒雲の傘を着た月が弱々しい光を放っている。風で黒雲が流れ、月が消えた。正重の姿が見えなくなるほど濃い闇が降りてきた。 「またすぐに会えますよね」 「もちろんだ」 正信は即答した。 「正純に会わなければなんからな。正重よ、苦労をかけるが、しのをよろしく頼む」 「兄上、ご達者で」  正信は足を引きずり、一人歩き始めた。闇に眼が慣れてきた頃、月がまた顔を出した。
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