《23》

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 捕らわれているというよりも、遇されいるといった方がしっくりきた。  上和田にある浄土宗の寺、浄珠院の一室である。 小川の地で起きたいくさに敗れた。 本多正信は家康軍に捕らえられ、ここに連行されたのだった。  正信は首を刎ねられるものと思い、覚悟を決めていた。が、首を刎ねられるどころか、縄すら打たれなかった。 一応、障子の向こうには見張りは居るが、部屋は清潔で、1日に3度、川魚や野菜の食事が運ばれてくる。小川のいくさから3日が過ぎている。正信は何不自由のない暮らしを送っていた。  夕焼けに空が染まり始めた頃、ふいに、障子が開いた。入ってきたのは、大久保忠世だった。  忠世は具足を解いていて、気軽な小袖姿である。 いくさは、終わったのだ。三河一向宗は敗北したのだ。忠世の姿を見、正信は改めてそう思った。  忠世が正信と対峙する形で畳に腰を降ろした。  忠世が正信をじっと見つめてくる。 忠世の幾分か皺の目立つ眼の回りを正信は見続けた。 元々、大久保忠世という男をそれほど嫌いではない。 当主は大久保忠俊だが、事実上、大久保党の長は大久保忠世だ。
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