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「そう言えば、何故父上はあれが本多忠勝だとわかったのですか? 過去に本多忠勝を見た事があったのですか?」
隆元に言われ、何故だろう、と直隆は考えた。黒い甲冑に鹿角の兜。右肩から掛かる大数珠にとんでもなく馬鹿でかい大槍など、見た目の噂も知っている事は知っていた。それでも、初見であれが本多忠勝であると断定できたのは何故だろう。
「匂いかのう」
直隆は言った。
「匂いですか」
隆元が言う。
「ああ、そうじゃ。真の豪の者は見ただけで何者かこちらに伝える匂いを発しておるのだ」
眼下では、みたび、本多忠勝が朝倉勢を突き抜けた。本多忠勝が率いる騎馬隊はまるで一本の巨大な黒い槍のように鋭かった。百騎を相手に朝倉勢5千はもはやずたずたになっている。
「兄上よ」
直澄が言って、馬の手綱を動かした。
「我らは景恒殿の援軍に来たのだろう。いくさ場に介入せんでも良いのか?」
「何を言っている、直澄」
直隆は笑いながら言った。
「義景殿はこうおっしゃったぞ。景恒が不利になったら、助けてやれと。景恒殿は今、僅か百騎を相手に戦っておられる。しかも、少し減りはしたが、まだ4千近い兵を擁しておられる。この状況はまだまだ不利とは言えまい」
「意地悪じゃのう、兄上」
直澄が声をあげて笑った。
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