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むしろ、景恒など瞑れてしまえと義景は思っているかもしれない。
朝倉宗家乗っ取りをたくらむ景恒の事を義景はひどく嫌っているのだ。
「あの、織田の本隊も良い牽制になっておるのう」
直隆は呟いた。
本多忠勝隊が駆け回る後方2町(約220メートル)ほどの場所で織田軍本隊が待機している。数は1万ほどか。
どういうわけか、本多忠勝を救援しないが、この本隊が気に掛かり、朝倉勢は動きが鈍くなってしまっているのかもしれなかった。
朝倉勢の中で、1人の騎馬武者が本多忠勝に一騎打ちを挑んでいる姿が見えた。
太田馬之助だ。元々、越前を拠点とした傭兵軍団を纏めていた男で体が大きく膂力もある。
「そうか。馬之助か」
直隆は呟き、眼を細めた。
本多忠勝の大槍が動いた。一瞬だった。馬之助の首が宙に舞い上がった。
直隆は呆息(ホウソク)を漏らした。この丘の上から見ていると、馬之助が自分から大槍の穂先に頭をぶつけていったように見えた。馬之助の動きを完全に読み切り、的確かつ迅速に本多忠勝が大槍を振りきったという事だろう。
「父上、どうか私に行かせてください」
隆元が鼻息荒く言った。
「本多忠勝と立ち合ってみとうございます」
若い隆元は血気盛んだった。
「やめておけ、隆元」
「私では本多忠勝に敵わぬとお思いですか」
「そうではない、隆元」
直隆の内心で、息子を頼もしがる気持ちと困惑する気持ちがないまぜになっていた。
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