《44》

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「ならば行かせてください」 言いながら、隆元はもどかしそうに身を捩った。 「あんな槍を見せられたら、たまらんのです」 「あの山をよく見ろ、隆元」 直隆は丘の左側にある山を指差した。 「何も感じぬか」 「伏兵ですか」 「ああ」 直隆は頷いた。 「この丘に布陣した時からわしは気づいていた。あの山には獣が潜んでおる。おそらく、お前が本多忠勝に届く前に、山の獣どもに遮られてしまうであろうよ」  金ヶ崎の町を取り巻く城砦を攻めた際、本多忠勝は騎馬隊以外に山岳兵のような部隊も遣っていたとの報告を直隆は受けている。おそらく、左側の山にはそれを潜ませているのだろう。 「これは金ヶ崎城の、朝倉景恒のいくさだ。直澄に隆元よ、我らは駆けつけ、ここで待機しているだけで役目を果たした事にしようではないか。やたら死地などに立つ必要はなかろう」 「あれほどの男を眼下にしての我慢は、中々に辛ろうございますな、父上」  隆元の気持ちは良くわかる。事実、本多忠勝と一番ぶつかりたがっているのは、直隆自身なのだ。 背中に背負った太郎太刀の柄に掛けたくてしかたのない右手の指を、直隆は固く握りしめた。 戦場、大槍が風車のように回転している。大槍の巻き起こす風が直隆の場所まで伝わってくるようだった。 太郎太刀とあの大槍をぶつかり合わせたら、どんな結末を迎えるのか。知りたい。その為だけにわしは生まれてきたのではないか。直隆はそんな事を思った。
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