《44》

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 遠く、東の空に朝焼けが見えている。もうじき日の出だ。    本多忠勝隊の勢いは一向に衰えない。よく見ると、景恒隊をよく伸ばし、薄くしてから攻撃を仕掛けている。本多忠勝はまだ22、3歳だと聞いているが、いくさのやり方をよくわかっている、と直隆は思った。 朝倉勢は指揮系統がばらばらになり、軍としての機能を失いつつあった。  ふいに、織田本隊が動いた。これにより、朝倉勢の数の有利が消えた。待機していた無傷の1万と、散々に切り崩された3千余りのぶつかり合い。勝負の帰芻にそれほどの刻は掛からなかった。 朝倉勢はあっという間に算を乱し、陣形など消し飛んだ。  逃げ惑う朝倉勢を追い討つ事はせず、織田本隊は金ヶ崎の方角に向かって駈け始めた。  砂ぼこりが舞い上がる。煙る戦場に本多忠勝の姿が見えなくなった。 やがて、砂ぼこりが晴れた。西の方角に行軍する織田本隊の背中が見えた。 本多忠勝隊はどこだ。直隆は金ヶ崎の方角を見続けた。 「丘の下だ、兄上」 直澄が大声をあげた。 直隆は丘の下を見た。丘の麓に沿うようにして、黒い騎馬隊が並んでいた。その中央、鹿角兜がやけに目立っている。  空に昇りきった日輪が注ぐ陽光に黒い騎馬隊が照らされた。 「兄上、これは臨戦態勢を整えた方が」 直隆は直澄の顔の前に右手をあげた。直澄が黙った。
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