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やるではないか、若造。
直隆は心で本多忠勝に語りかけた。
そんな所にふんぞり返っていないで、降りてきたらどうだ。
本多忠勝がそう応えたような気がした。
今日はやめておく。お前のような素晴らしい男には中々出会えん。いずれまた、相応しい、いくさ場で相まみえようではないか。
本多忠勝が頭上で槍を回して、右脇に挟んだ。
直隆は背中の太郎太刀を素早く引き抜き、頭上で何度も回し、本多忠勝に剣先を向けた。
直隆の肌に粟が生じた。対峙するだけでここまで心がざわついたのは初めての事だった。
本多忠勝が馬首を回した。黒い騎馬隊全騎の馬首が同時に回る。
いずれまた、と本多忠勝の心の声が聞こえた。
おう、と直隆は心で応えた。
「さてと、一乗谷城へ向かうか。義景殿に報告をせねばならん」
「この惨敗ぷりをか」
直澄が笑いながら言って、朝倉勢の屍体で覆われた平野に手を向けた。
「惨敗? 何を言っている、直澄」
直隆は言う。
「凄い大槍を見た。それ以外の報告が必要か」
「いらんいらん」
言って、直澄が大きく頷いた。
「たしかに、この場は大槍がすべてだ」
「そうだろう。早よう一乗谷城へ戻り、義景殿の驚き顔を見ようじゃないか」
左側の山に感じた獣の気配はもう消えていた。
兵を退く前にもう一度本多忠勝の姿が見たくなり、直隆は丘の下を見た。
本多忠勝と黒い騎馬隊はもう、遥か遠くを駆けていた。
(3巻に続く)
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