《26》

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   押し合えば、この岩山の隘路を通る。 最近忠勝は、いくさ場の呼吸がよく見えるようになっていた。読みは絶対に外さないという自信がある。遊撃の快さを忠勝は覚え始めていた。 「隊を2つに分ける。梶原、25騎を率いて左の岩山に登れ」 忠勝は下知を飛ばした。 「残り25騎は俺と共に右の岩山に登る。小原鎮実の隊が現れたら逆落としによる挟撃をかける」  黒疾風の行動は迅速だった。忠勝が手綱を動かすや、即、25騎となり、後を駆けてくる。小阪助六が並走する。岩山の登り口はなだらかだった。 頂に到達した。対山に梶原の姿が見えた。梶原が右手を上げた。配置が完了したという合図だ。  山肌の傾斜はかなりきついが、瘤のようになっている部分もかなりあった。日頃、難所を馬で駆ける訓練を相当に積んでいる黒疾風なら駆け降りる事は容易い。  忠勝は息を潜めて待った。空が白み始める。東の空に陽が昇った。平野の新緑が眼に眩しい。 喊声が遠くに聞こえてきた。それが地響きのようになった時、吉田大橋の方向に砂煙が上がるのが見えた。 「来たぞ」 忠勝が言うと、助六の丸い背中が緊張した。対山、梶原隊の武氣が濃度を増す。 「槍」  助六の左手から忠勝の右手へ、蜻蛉切が渡る。
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