《26》

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   5月晴れの空である。強い陽射しが忠勝の顔を焼いた。 豊川に架かる吉田大橋を渡れば、すぐに吉田城の城下町にたどり着く。 軒を連ねる家々は固く門を閉ざし、町はひっそりと静まり返っている。  濠が見えてきた。吉田城だ。 鳥居、本多(忠真)、大久保、榊原の4隊が先行している。 もう虎口くらいは破っているだろうと忠勝は予想した。 濠に肉薄した。そこで展開されていた光景は忠勝の予想とは大きく違っていた。 先行部隊の4隊は、濠に架かる桟橋に近づく事すら出来ず、立ち止まっていた。 前方、桟橋の向こうには数にして百を少し越える程度の敵兵の姿があった。 「どうした事か」 忠次が鳥居元忠に馬を寄せて訊いた。 「酒井殿、すみません」 元忠が馬上で頭を下げる。 「1人とんでもなく強いのがいて、あの桟橋を渡ろうとする我が軍の兵をことごとく打ち倒してしまうのです。もう、30人以上はやられました」 「それほどの者がまだ今川にいるのか」 忠次が唸った。 忠勝は桟橋を見た。幅は狭く、一度に4人か5人くらいしか渡る事ができなさそうだ。ここを越えるまでは兵力の彼我は関係ないだろう。 「何度も攻めかかり、敵を疲弊させる。その強者も疲れを知らぬ魔物ではあるまい」 忠次がよく通る声で言った。 忠勝は濠の向こうを見続けた。 「なるほどな」 忠勝は呟き、納得した。 「あいつが居たのか」  濠の向こう、人群の中に桔梗傘を発見したのだ。 
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