《26》

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 総次郎以下、今川兵が桟橋に殺到してくる。 黒疾風は桟橋を渡らず、皆、濠に向かって突進した。  敵、味方双方からどよめきが起こる。  濠の幅およそ10間(約20メートル)、黒疾風はそれを次々と飛び越えていった。 すべての騎兵が濠の向こうに飛び移った。 敵兵は木人のように動かなくなっている。忠勝は馬腹を蹴った。馬が疾駆する。忠勝の右肩で大数珠が激しく揺れた。濠が近まった。 左手で手綱を操った。馬が地面を強く蹴る。 地面が消えた。日輪が近くなる。浮いていた。中空で忠勝は確信した。羽根が無くとも人は空を飛べるのだ。  濠の向こう、ほとんど音もなく忠勝は着地した。 すぐさま周囲に黒疾風が集まってきた。 忠勝から少し間をおいた所で妖怪でも見たかのように、総次郎が眦を裂いている。 「これで、お前が頼りにしていた桟橋はその効果を失ったぞ」 忠勝が言うと、総次郎の眼が光った。 「かかれ。我が方は敵の倍ぞ。松平の本隊が動く前に、この黒い騎馬隊を殲滅する」  敵が動いた。 「梶原、黒疾風を指揮せよ」 「はっ」  忠勝の指示の後、梶原が巧みに黒疾風を動かし始めた。  黒疾風と今川勢が争闘を繰り広げる輪に囲まれるようにして、忠勝は総次郎と対峙した。
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