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総次郎は桔梗傘を抱きしめ、童のように声をあげて泣いた。落涙が桔梗傘にいくつもの点を作っている。
ひとしきり泣いたあと、総次郎は桔梗傘を着け、平伏の姿勢で忠勝の方を向いた。忠勝が打った腹が痛むのか、総次郎の顔が歪む。
「いいよ総次郎。楽な姿勢でいろよ」
忠勝は言った。総次郎は平伏の姿勢を崩さず、歯を食い縛り、表情を引き締めた。
「わかったような気が致します」
総次郎が言った。
「我が師城所助之丞の死に顔があれほどまでに安らかであった理由が。こういうお方が討ってくだされのだ。本多忠勝が討ってくだされのだ。武人としてこれほど幸せな最期はなかったかと思います」
「よせよ、総次郎」
忠勝は言った。いつの間にか、周りには酒井忠次以下、松平本隊が集まってきている。康政が忠勝のすぐ隣に進み出てきた。
「俺はそんな大層な男ではない。ぼうっとし過ぎだと沢山の人間に怒られてばかりだ」
康政が渋面を作り何度も頷く。忠勝は康政の肩を押した。
康政が大袈裟な仕草で肩を抑える。
「忠勝の馬鹿力で突かれた。肩が外れた」
「何を言っているんだ、康政。馬鹿野郎が」
皆がどっと笑う。忠勝は最近、康政の父である榊原長政に礼を言われた。近頃康政はよく冗談を言う。利口なだけの男ではなくなった。
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