《26》

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 何やら康政は深みのある武士になってきたのだ。それは忠勝と友達付き合いを始めてからなのだと榊原長政は言って、忠勝に感謝してきた。感謝される理由についてはよくわからないが、初めて出会った頃より今の康政の方が忠勝も好きだった。 「忠勝殿」 総次郎が叫ぶように口を開いた。 「恥を偲んでお願い致します。俺を配下の末席加えてくだされ。俺の残りの生涯、忠勝殿に捧げます」  忠勝は屈み、総次郎の両手を取った。総次郎の泣き腫らした顔の横に、飄々とした城所助之丞の顔の幻影がみえた。 「改めて頼む、総次郎。黒疾風の一員になってくれ」 「この命、いかようにもお使いを」 「よぉし」と、酒井忠次が声を挙げる。 「このいくさ我らの勝ちじゃ。者共、勝鬨をあげよ」  皆が拳を突き上げ、勝鬨をあげる。地鳴りのような松平勢の声が五月晴れの空に吸い込まれていった。
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