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若い使者は短い悲鳴を発し、地面に尻餅をついた。
綺麗に、真っ2つになった石が落下する。石が地面につく寸で、直隆は再び太郎太刀を振った。石が4つになり、使者の傍らに落ちた。
太郎太刀は石を斬っても刃こぼれひとつしていない。むしろ、研ぎ澄まされたくらいだ。
直隆は太郎太刀を右手にぶら下げるように持ち直し、腰を抜かしている使者を見下ろした。泣きべそをかいた若い使者の袴はびっしょりと濡れていた。
「父上は恐ろしいですなぁ」
言いながら、隆元が傍に寄ってきた。
「あんなに近くで剛剣を振るわれるなんて、正気の沙汰ではありませんよ」
「何を言うか」
直隆は笑って応えた。
「ご使者殿の体の前目掛けて、正確無比の1投であったではないか。隆元よ、お前こそ正気でないわ」
隆元が笑う。豪快な笑い声を聞き、直隆は眼を細めた。隆元は齢19になった。本当に自分によく似てきた。最近、隆元を見ていると、鏡と対峙しているような気分に包まれる。
天を衝くような巨大な躰、馬のように長い顔、のんびりとしたしゃべり方、隆元は何から何まで真柄直隆そのものだった。
「兄上、兄上」
館の縁側から、台風のような大声が聞こえた。
眼をやると、弟の直澄が立っていた。「見てくれ兄上」
身軽な動作で直澄が縁から庭に飛び降りた。直澄の右手には鞘に収まった馬鹿でかい刀が握られている。
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