《27》

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「おかしいのう。まともに振れんぞ」 直澄が刀身を眺めながら、不満そうに呟いた。 「貸してみろ、直澄」 直隆が太郎太刀を隆元に預け、手を伸ばすと、直澄は大太刀を渡してきた。 直隆の手にずしりとした重みが伝わってくる。 「これは、中々だのう」 「父上、私にも後で振らせてください」 隆元が眼を好奇に光らせて言った。  直隆は隆元に頷きかけてから、大太刀を横に振った。朝倉の使者が後ろにひっくり返った。 朝倉の使者は泡を吹いている。意気地がない。直隆は朝倉の使者を見つめ、呆れ笑いを浮かべた。着物を斬っただけなのに、朝倉の使者は気絶してしまった。 「凄いな、兄上」 直澄が朝倉の使者の傍らに屈み、切れた着物に触れた。 「完璧な斬撃だったではないか。その重たい太刀をあそこまで振るとは、流石は兄上の膂力だのう」 「膂力などいらぬ」 直隆は直澄に大太刀を返しながら、言った。 「むしろ、脱力した方が太刀はよく振れる。この重さに抗うのではなく、身を任せるのだ。そうすれば、人が斬らずとも、太刀が勝手に斬ってくれる」 「そんなもんかのう」 直澄が立てた太刀の柄を回した。 「その太刀は、次郎太刀と名付けろよ」 「おお、いいな、兄上」  直隆は手を鳴らし、館に詰めている下男を呼んだ。 「これは朝倉義景殿が寄越してきた使者なのだがな」 直隆はまだ気絶したままの使者を指で差し、下男に言った。 「一乗谷城にお送りして差し上げろ。褌の前も後ろも汚れておるのだが、そのままでな。その方が、わしの気持ちが義景殿によく伝わる」
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