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夜になり、直隆は居室にて妾に体を揉ませていた。見た目の器量は悪い女だが、指圧が上手いので傍に置いている。
妾の指が、腰に深くめりこんでくる。茵にうつ伏せになり、直隆は唸った。
燭台で蝋燭がちりちりと音を立てている。
朝倉義景について考えた。動員できる総兵力はおそらく8千くらいか。それに対し、直隆の領地である真柄荘で動員できる総兵力は、1千に少し足りない程度である。それでも、普段から野伏せりなどを相手に実戦を重ねている。いくさ慣れという意味では朝倉勢を上回るという自負があった。
「来るなら、来い」
直隆は声に出した。妾の手が止まる。
顔を横に向けた。妾はどうすれば良いのかわからず、戸惑っている様子だ。
「続けよ」
妾の表情に安堵が拡がる。指圧が再開された。再び、考察に戻る。義景を嫌っている訳ではないのだ。それでも、ある部分での線引きはしておかなければならないし、いくさになった時の想定も常にしておかなければならない。
朝倉家とのよい感じの折衝を持ってして真柄家は、越前の地で生き延びてきたのだ。そしてこれからも生きて行かなければならない。一族の生活を護る。直隆の使命である。
障子の向こうに、端座する隆元の巨影が現れたのは直隆が半分眠りに落ちかかった頃だった。
「一乗谷城から、使者が再び来ました」
もう深夜である。
「また、若造か」
「いいえ」
隆元の巨影が動く。
「河合吉統(ヨシムネ)殿です」
直隆は飛び起きた。妾が驚き、身を竦めている。
「ああ、すまん」
直隆は妾に謝った。
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