《27》

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「鼓膜が破れそうだ」 吉統が苦しげな声で言った。 「参りましょう」 直隆は言った。 「うん?」 呟いて、吉統が眉を動かす。 「明後日ですよ、吉統殿。足利義昭殿を歓待する宴にわしも参りましょう」 「直隆殿の怒りは相当に大きいのではないかと予想していたのだが」 「このような刻限に吉統殿のような大物が我が館を訪なってくだされた。いやぁ、今わかりましたわい。時々苛つくのですが、根っこの部分でわしは朝倉義景殿が好きなのですなぁ」  呆れているのか、吉統があんぐりと口を開いている。 「まるで鬼に遇ったかのように上川は直隆殿の話をしていた」 「上川?」 「今日の昼、一乗谷からここへ来た男だ」 「ああ、あの坊やですか」  頷いた吉統が微かな笑みを浮かべた。 「こうして対峙してみると、直隆殿は実にのんびりとしたしゃべり方をする。時々激すという事だが、私には想像もつかんな」 「いかんせん、人間が未熟なものでしてなぁ」 右手で烏帽子を直しながら直隆は言った。 「感情を抑えきれん事しょっちゅうですわい」 「食えんな」 「何がでございましょう?」 「その素直さだ。その茫洋で素直な真柄直隆に気を赦せば、いずれ朝倉家は乗っ取られてしまいそうだ」 「滅相もない、滅相もない」 直隆は大袈裟な仕草で右手を顔の前で何度も振った。 「この直隆、そのような野心、欠片も持ち合わせておりませぬ。真柄荘の統治だけで手一杯ですわい」
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