《27》

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 吉統が苦笑した。直隆は手を打ち鳴らす。 障子戸が開き、両膝をついた隆元が姿を現した。 「酒をもて隆元」 「はっ」  外が明るくなるまで直隆は吉統と盃を傾けた。吉統と二人で呑んだのは初めてである。吉統は酔うと砕けた口調になり、義景の悪口などをいくつか並べた。久しぶりに楽しい酒だ。直隆は大いに満足していた。吉統は昼過ぎまで真柄館の客間で眠った。起きた時の吉統の慌てふためく様子がおかしく、直隆は大きな声で笑った。  足利義昭の宴には、直澄と隆元を伴って出掛けていった。一乗谷城に続く登り坂にはいくつも提灯がぶら下がっていて、夜だが歩くには難くなかった。5月の夜風が顔に快い。生い茂る松が放つ香りを直隆は鼻一杯に吸い込んだ。 一乗谷城の大手門前で太刀を預けるよう番兵に言われた。 「この太刀は本日の余興に使いますのじゃ」 直隆は笑いながら、気を放った。番兵が半歩、後じ去る。直隆は太郎太刀を翳した。 「こんな馬鹿でかい物をまともに振れるわけがないでしょうに。これは実戦用ではないのです。それに、わしは義景殿を襲ったりしません。朝倉義景殿がおるから真柄直隆がおる。逆もしかり。よろしいかな、番兵殿」  困惑の表情を浮かべる番兵の脇を直隆は「お役目ご苦労」と言って大股で通り過ぎる。 「やあ、義景殿」 一乗谷城の城郭内、二の丸館の前で義景を見つけ、直隆は声をかけた。 「ご機嫌如何かな」
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