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「義景殿は、この越前の地で将軍家を擁立するのですかな」
「京では、松永久秀の手により、足利義維を将軍に頂いた幕府がすでに発足されている」
吉統が膳を見つめて言った。
「その上で、この越前に、もうひとつの幕府を作れば、応仁の乱の再来になるだろうな。この国はますます混迷の深みに陥る」
「足利義昭殿を擁立し、松永久秀と一戦交えるのも、わしは面白いように思いますがな」
直隆が言うと、吉統は呆れたように笑い、暢気な事を、と言った。
「よいか、直隆殿。前将軍、足利義輝を討ち、松永久秀は日の出の勢いを得ている。久秀が一声かければ、畿内で10万の兵が集まるという噂だ」
「10万」
直隆の声が裏返った。10万の軍が原野を埋め尽くす様を想像した。途方も無さすぎて、直隆の頭には何も浮かばなかった。
「もし、いくさになり、久秀が兵を興せば、その倍からの兵が全国から集まってくるとも言われている」
直隆は両手を上に挙げ、口を半開きにした。
「化け物ですかい、松永久秀という男は」
「化け物だ」
吉統が言って顎を引いた。
「ここ越前で義昭殿を擁立すれば、朝倉家は松永久秀に対して宣戦布告したも同じ。軽はずみに足利義昭殿を受け入れる事などできないのだ。下手をすれば、朝倉家は滅ぼされる」
腕を組み、瞑目し、直隆は唸り声をあげた。
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