《27》

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 皆が揃った頃合いで、義景が立ち上がり、本日の宴の主旨、更には足利義昭がいかに悲惨な目に遭い、越前に落ちてきたかを語り始めた。  場に、嗚咽が響いた。足利義昭のものだ。義昭が敷物に顔を突っ伏し、赤ん坊のような泣き声をあげた。義昭の配下らしき者3人が肩を抱き、義昭を宥めた。  そら負けるわな。直隆は出かかった言葉を呑み込んだ。足利義輝は剣豪将軍と呼ばれ、かなり勇敢な人物だったと聞いている。足利義昭は足利義輝の弟である。本当に剣豪将軍と同じ血が流れているのかと直隆は暫し疑った。次期将軍がこれでは、足利幕府の命脈は最早途絶えている。 こんな物を擁立しても、利するところはどこにもない。越前に禍の種を植わえるだけだ。  義景が用意したのか、芸人一座が4組、場に姿を現した。 笛や三味線、太鼓の音が響き、宴席の空気が華やいだ。 足利義昭はまだ泣き続けていて、料理にも酒にも手をつけていない。 「早急に、去って頂いた方がよいのだろうな」 顔を赤らめた吉統が口を開く。 「おぉ、酔ってまいられましたな、吉統殿」 直隆は愉快な気分になり、吉統を見た。 「出ますか。毒舌が」 「そんな事ではなく、道理だ。足利義昭一行を留めても、何の大義名分も当家には立たぬ。義昭に諸侯を動かすだけの人間力がないからな。一行を抱え続ければ、松永久秀に睨まれるだけだ」
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