《27》

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「この宴を催したということは、義景殿の腹は決まっているのですかなぁ。足利の為に働くおつもりなのかな」 「いや、そうではなかろう」 「ほぉ」  芸人一座のうちのひとつは、全員狐面を着けている。宙で前回りしたり、尻を支点にし、地面で回転したり、と狐面の一座はかなり激しい舞いを音曲に交えて見せる。狐面が動く度、場に大きな喝采と歓声が起きた。 「お館様はのう、お優しいのだ」 吉統が眼を据わらせて言った。 「ぼろぼろになって越前に落ちてきた足利義昭を無下に追い返す事ができなかったのであろう。とりあえず、この宴を催し、足利義昭を労わずにはおれなかったのだと、私は思う」  よく言えば情に厚い。悪く言えば、お人好し。まぁそのあたりが、朝倉義景という男の放っておけない部分ではあるのだが。 芸人一座の音曲が止んだ。 「見事、見事であった」 義景が立ち上がって言った。義昭はもう突っ伏していないが、赤く腫れた眼でぼんやりと中空を見つめ、生気がなく人形のようになっている。 「特に、狐面の一座よ、お主らの舞いは見事であった。しかし、おかしい。私が呼んだ一座は3組であった筈だ。吉統よ、お前が仕込んだのか」  直隆の隣で吉統が立ち上がった。 「いいえ、お館様。私は知りません」 「そうか、吉統ではないのか」  直隆の脳内で何かが反応した。立ち上がり、膳を蹴った。けたたましい音が背中で鳴る。太郎太刀の鞘を払った。狐面の一座の笛や琵琶から刃が現れた。仕込み杖だ。
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