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「ひ」と膳の下に頭を隠した義昭が悲鳴を発した。
直隆はゆっくりと歩み寄り、左手で義昭の腰帯を掴んだ。
「わ、わ、わ」
直隆がそのまま持ち上げると義昭は頓狂な声を発して、手足をばたつかせた。
「貴様、何を」
義昭の配下が色めきたった。直隆は義昭の配下を俾倪した。主君が腰抜けなら、配下も腰抜けになるようだ。5人いる義昭の配下は下を向き、黙り込んだ。
直隆は顔の高さに義昭の体を持ち上げた。直澄と隆元も顔を寄せてくる。
「助けてくれい、義景殿」
喚く義昭は泣きべそをかいていた。
「鬼じゃ、鬼に喰われる」
「こら、直隆」
義景が傍に来て言った。
「義昭殿を降ろせ。仮にも、前将軍の弟君であらせられるお方だぞ」
「足利義昭殿よ」
直隆は更に顔を近づけて、笑顔を意識しながら、口を開いた。義昭は歯を鳴らして体を震わせている。
「朝倉義景殿は、大層お優しいお方だ。義昭殿が居たいだけ、越前に居らせて下さるでしょうなぁ。だがのう、越前には、この真柄直隆もおりますのじゃ」
義昭はきゃあと女人のような悲鳴を発してから「誰か、誰か助けてぇ」と叫んだ。
義景の咎める声や、義昭の配下のものらしき怒声も聞こえてきたが、直隆は無視した。
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