305人が本棚に入れています
本棚に追加
「肩に掛けてみて」
万華鏡の眼を輝かせて唹久が言った。
「どうせなら、甲冑を着けてから掛けた方が、金がよく映えるんじゃないかな、唹久姉さん」
乙女が言って、忠勝の手から大数珠を奪い、体の前に翳してくる。
「そうね」と唹久が頷いた。
「黒に金って凄く綺麗かも」
「おいおい、俺は人形じゃないぞ」
忠勝は言った。何度も角度を変えながら乙女が忠勝の体に大数珠を翳し続ける。
障子戸が開いた。起き出してきたすみれが部屋に入ってきた。
「わぁ、綺麗」とすみれは喜色満面で乙女に駆け寄った。
「いいだろう、これ」
言いながら、乙女は大数珠をすみれに差し出し、見せてやっている。
「唹久姉さんと私とで一所懸命作ったんだ。なぁ、すみれ、これを兄様が肩から掛けてるとこ、見たいよな」
「見たい見たい」とすみれがはしゃぐ。
「わかったよ」と言って忠勝はため息をついた。全く、女というやつは。時折みせるこの連帯感。黒疾風をも凌ぐかもしれない。
具足を整え、金箔の大数珠を肩に掛けると甲高い歓声があがった。
「いい」と乙女が手を打つ。
「凄くいいじゃないか、鍋」
「本当」と言って唹久が胸の前で手を組んだ。「男振りが2割は増してるわ」
「兄様、素敵」
すみれも言う。
「そうか」
言って忠勝は自らの体を見た。金箔の光が眼に当たる。
「何だか落ち着かないなぁ」
最初のコメントを投稿しよう!