《28》

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「居たんだ」 言って、乙女が腹をさする。 「もしかして」と、唹久が座ったまま乙女の傍に進み、手を握った。糸の眼が下がり、乙女が頷いた。 「ややが、腹に居るみたいなんだ」 乙女が言った。忠勝はすぐに言葉の意味を理解する事ができなかった。 「ややが」乙女が言葉を強調して言い直した。 「私の腹の中に、鍋の、本多忠勝の子供が宿ったんだ」  無意識に、忠勝は雄叫びをあげた。そして立ち上がり、乙女に近づくや、腹の子を慈しむように、力を入れず抱きしめた。 「乙女、よくやった。ありがとう」 込み上げてくるものを抑え、忠勝は言った。 「そういう言葉は、無事に産まれてきてから言うものだろう」 忠勝の腕にそっと触れ、乙女は柔らかい口調で言った。 「無事に産まれてくるに決まっている」 忠勝は乙女の頭を更に体の方へ抱き寄せた。 「頑張って、跡取りを産むからな」 忠勝の胸に額を押し当てて、乙女が言った。 「馬鹿」 忠勝は言う。自分でも驚くほど、優しい声になっていた。 「跡取りを、なんて考えなくていい。元気な子を産むことだけを考えてくれ」  乙女が頷いた。 「私は凄く嬉しい。懐妊を、鍋がこんなにも喜んでくれた事が」 「おめでとう、乙女」 唹久が言って、乙女の肩に触れた。 「女の闘い的には一歩遅れちゃうけど、乙女の懐妊を心から祝福するわ」 「ありがとう、唹久姉さん」  すみれも傍にきて、「おめでとう、乙女ちゃん」と舌足らずの声で言った。
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