《28》

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 忠勝と康政は本丸館、評定の間に入った。この部屋には畳が入っていて、座るのはいつも楽なので忠勝は気に入っていた。 二人が一番乗りだった。暫くして、松平家臣団が姿を見せ始めた。皆、具足姿である。 一番上座寄りの場所に大久保忠世が腰を降ろした。その対面には鳥居元忠が腰を降ろした。以下、石川家成、石川数正、大久保忠佐、松平伊忠、本多忠真、夏目吉信、平岩親吉、本多重次などが居並ぶ。 酒井忠次が城持ちとなってから家臣団の筆頭は大久保忠世である。それに次ぐ立場にいるのが鳥居元忠だ。そういった観点から、この座り位置は妥当だと、末席に座す忠勝は思った。隣で康政も頷いている。  忠勝は立ち上がり、忠真の背後に進んだ。忠真が振り返る。 忠勝は膝をついた。 「叔父上、報告があります」 「おう、なんだ」 微笑み、応える叔父忠真は齢38になっている。その顔には深い年輪が刻まれていた。 「乙女が、懐妊しました」 「なんと」 忠真の声が評定の間全体に響く。 「まことか忠勝」 「はい」 忠勝は力を込めて顎を引いた。 「そうか、忠勝が父親になるのか」 忠真は忠勝の頭を掴み、眼を潤ませた。 「わしは、嬉しい。心から嬉しい。忠勝が戦功を重ね、武士として成長し、そしてまた男として、最大の責任を今果たした事が」 「これからも精進いたします」 「ただ、忠勝の子を兄上にも義姉上にも見せてやれんのが、少し辛いのう」 「父上と母上はきっと俺の子を見てくれますよ。父上と母上は今も生きているのです。俺や叔父上が忘れぬ限り永遠に。最近そう思うようになってきました」
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