《28》

8/16
305人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
「お前のような息子を持つ事ができ、兄上や義姉上は幸せであったろうなぁ」 言って、忠真が遠い眼をした。 「お前のような甥を持つ事ができたわしもな」 「子が産まれるのか、忠勝」 言ったのは、鳥居元忠だった。 「はい、鳥居殿」  元忠が忠勝の傍に来て、袋を突きだした。 「祝儀だ。今はこれだけしか持ち合わせがないが、また後でお前の家に持っていく」 「そんな、鳥居殿」 忠勝は恐縮した。元忠が強引に銭袋を忠勝の右手に握らせた。 「取っとけよ。こういう物に遠慮は無用よ」 「ありがとうございます。鳥居殿」  大久保忠世も傍に来て、鳥居元忠と同じように銭袋を渡してきた。続々と皆が寄ってきて、競うように忠勝に祝儀を渡してきた。誰もが自分の事のように喜んでくれた。三河国人衆の絆の強さを忠勝は感じた。 「どうだ、忠勝。今日の評定で一番上座よりに座ってみんか?」 突然、元忠がそんな事を言い出した。 「何を言われますか鳥居殿。俺はこの中で一番若輩です」 「歳など関係あるか。これからの当家を支えていくのはお前よ忠勝」 元忠が快活な物言いで続ける。 「将来的には間違いなくお前が家臣団筆頭になるのだ。それならば、今一番上座よりに座しても何の不自然もなかろう。なぁ、忠世殿」  元忠に促された大久保忠世が大きく頷いた。 「異論なしだ。わしもそう思う」 「忠世殿まで、そんな」 忠勝は困惑した。鳥居元忠という男は度々こういう無茶振りをしてくるのだ。 「ま、座ってみろよ、忠勝」 言って、鳥居元忠は忠勝の肩を持ち、強引に上座よりの位置に連れていく。渋々、忠勝は腰を降ろした。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!