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「お前のような息子を持つ事ができ、兄上や義姉上は幸せであったろうなぁ」
言って、忠真が遠い眼をした。
「お前のような甥を持つ事ができたわしもな」
「子が産まれるのか、忠勝」
言ったのは、鳥居元忠だった。
「はい、鳥居殿」
元忠が忠勝の傍に来て、袋を突きだした。
「祝儀だ。今はこれだけしか持ち合わせがないが、また後でお前の家に持っていく」
「そんな、鳥居殿」
忠勝は恐縮した。元忠が強引に銭袋を忠勝の右手に握らせた。
「取っとけよ。こういう物に遠慮は無用よ」
「ありがとうございます。鳥居殿」
大久保忠世も傍に来て、鳥居元忠と同じように銭袋を渡してきた。続々と皆が寄ってきて、競うように忠勝に祝儀を渡してきた。誰もが自分の事のように喜んでくれた。三河国人衆の絆の強さを忠勝は感じた。
「どうだ、忠勝。今日の評定で一番上座よりに座ってみんか?」
突然、元忠がそんな事を言い出した。
「何を言われますか鳥居殿。俺はこの中で一番若輩です」
「歳など関係あるか。これからの当家を支えていくのはお前よ忠勝」
元忠が快活な物言いで続ける。
「将来的には間違いなくお前が家臣団筆頭になるのだ。それならば、今一番上座よりに座しても何の不自然もなかろう。なぁ、忠世殿」
元忠に促された大久保忠世が大きく頷いた。
「異論なしだ。わしもそう思う」
「忠世殿まで、そんな」
忠勝は困惑した。鳥居元忠という男は度々こういう無茶振りをしてくるのだ。
「ま、座ってみろよ、忠勝」
言って、鳥居元忠は忠勝の肩を持ち、強引に上座よりの位置に連れていく。渋々、忠勝は腰を降ろした。
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