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「お前も」
元忠が康政を見て言った。
「え、私ですか」
いきなり名指しされ、康政が焦った表情を浮かべた。
「忠勝の対面に座れ康政」
元忠はとても嬉しそうに続ける。
「お前ら二人でこれからの当家を引っ張っていかねばならん。我々はもう、本多忠勝、榊原康政について行くだけよ」
大久保忠世ら4人に促され、康政は忠勝の対面に座らされた。忠勝と康政が上座よりに並ぶと、謎の歓声が湧き、その後、拍手が起きた。忠勝は康政と眼を合わせた。康政は小さく息を吐き、肩をすくめた。
談笑が間に響く。忠勝は少々の疲弊を覚えながらも、年長者たちの冗談につき合った。
暫くして、家康が間に姿を現した。
声が止む。甲冑が擦れる音が間に響く。皆、一斉に平伏した。
「皆、楽にせよ」
家康の声が合図となり、皆、一斉に顔を上げた。家康が上座に腰を降ろした。家康の傍らには忠勝の義父阿知玄鋳(ゲンチュウ)も居た。
玄鋳は着物姿だが、家康は具足を整えていた。
玄鋳が一番下座に下がった。
「三河を統一してからもう1年が過ぎた」
家康が言った。
「ここらでわしは、次の展開に移りたいと考えている。遠江に兵を進める」
一同がざわついた。遠江は今川氏真の領土で、松平家としてはいつかは攻め取らねばならぬ地ではあるのだが、中々兵を進められないでいた。
それは、遠江のすぐ後ろに甲斐があるからだ。甲斐には、戦場の虎、武田信玄がいる。
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