《28》

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 甲相駿(コウソウスン)同盟というものがいまだに生きている。 甲斐の武田、相模の北条、駿河の今川の三者で交わされている盟約だ。今川氏真の背後には武田信玄という強力な盟友が居るのだ。それゆえ、松平軍は三河から先が手詰まりになっていた。 遠江と甲斐は近い。今川氏真が援軍を乞えば、1日、いや、ひょっとすれば半日で武田騎馬軍団は遠江に駆けつけてくるだろう。 「武田信玄とのぶつかり合いかぁ」 忠勝の左側で元忠が右拳を左掌に打ちつけて呟いた。 「何やら、血がたぎってくるのう」 「武田騎馬軍団は強大です」 忠勝の対面で康政が冷静な声音で言う。 「これと当たるとなれば、我が方も甚大な被害を覚悟しなければなりません」 「何を弱腰になるか、康政」 元忠が片膝立ちになり、鼻息荒く言った。 「三河を手中に入れ、我らも大きくなっておる。武田信玄恐れるに足らず。目にもの見せてくれん」 「蛮勇の先にあるものは、玉砕だけだぞ、鳥居殿」 康政の左隣、大久保忠世が顎を擦りながら言った。 「武士として、血を熱くたぎらせるお主の事を個人的に嫌いではないが、ここは評定の場だ。もう少し冷静に物を言われよ」  鳥居元忠は低い唸りを漏らしてから、忠勝と康政を交互に見、「すまぬ。つい取り乱した」と言ってから座り直した。 「何か、情勢に変化がありましたか、お舘様」 忠世が言うと、家康は頷いた。
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