《28》

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 康政の補佐に夏目吉信が選ばれた。忠勝も甲斐行きを志願したが、お前は岡崎でやらなければならん仕事が多いからと家康に言われ、認められなかった。  その後、康政に与力100人がつけられる話や、遠江の曳馬(ヒキウマ)城がいかに攻め難い城であるかなどの話が交わされ、昼前に評定は散会となった。  本丸館を出た所で忠勝は康政を昼飯に誘ったが、与えられたばかりの与力と顔合わせしたり、夏目吉信と甲斐行きの打ち合わせなどしたいゆえに、と断られた。  ならば、岡崎の町に設けてある黒疾風の屯所で梶原たちと一緒に飯を食うかと考え、忠勝が石段を降り始めた時、叔父の忠真に声を掛けられた。 「これから、何か用事はあるか?」 忠真に訊かれた。 「いえ、今日は特に何も」 「なら、少しつき合ってくれ」  忠真が歩き出す。忠勝は忠真の後ろを歩いた。 忠真は、岡崎城区内にある演習広場で足を止めた。 広場に人の姿はなく、静まり返っていた。どこからか聞こえてくる鳥の鳴き声が広場の静寂を更に濃くする。 「今日は、比較的暖かだな」 言って、忠真は広場の隅に設置されている矢倉に立て掛けられた数十本の中から棒を2本執り、1本を忠勝に差し出してきた。 「執れよ、忠勝」
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