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忠勝は棒を受け取った。蜻蛉切に眼が慣れているせいで忠勝にはひどく短いものに見えてしまうが、平均的な槍くらいの長さの棒だ。
「手合わせしてくれよ、忠勝」
忠勝は忠真に視線を向けた。
「稽古の相手ですか、叔父上」
「いや、できれば、いくさ場の本多忠勝で向かってきてほしい」
腰を少しだけ落とし、忠真が棒を中段に構える。
忠勝は忠真が構える棒の先をじっと見つめた。
「どういう意味でしょうか」
「打ち殺すつもりでこいという意味だ。わし自身、知っていたい、いや違うな。わかっているのだが、わしの中にある一欠片の誇りがそれを認めようとせぬ。わしは、思い知りたいのだよ、忠勝。思いっきり打ちかかってこいよ。手を抜くことは、わしへの侮辱だと知れ」
「わかりました」
忠勝は棒を下段に構え、武氣を放った。忠真の眼が悲壮に満ちたものに変わった。
忠勝の武氣に弾かれたように、忠真が踏み込んでくる。忠勝の眼には、忠真の振る棒の動きがゆっくりに見えた。かわし、忠勝は小さく棒を動かした。忠真の脇を通り抜ける。振り返った。忠真が地に膝をついて
呻いていた。
棒を支えにして、忠真が立ち上がる。
「もう一本だ」
忠真が喘ぎながら言った。
気合い一声を放ち、忠真が打ち込んできた。同じだった。忠勝はまたかわし際に、忠真の腹を打った。
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