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「わかりました、叔父上」
忠勝は声に力を込めた。
「これから俺は、本多一族の長としての自覚を持ち、日々、勤しんでまいります」
忠真は命を懸けて忠勝に挑んできた。そして今、受け入れ難きを受け入れ、忠勝に頭を下げている。
これを断るは武士にあらず。いや、男にあらず、だ。
忠勝は忠真の想いを胸に刻んだ。
「もう少しやれると思っていたのだがなぁ」
言って、忠真が笑った。
「歴然とした差があるとわかっていても尚、認められない部分があった。まぁ、わしも男という事だのう」
「俺の土台には、叔父上に教わった事がいつでもあります」
「気を遣うな、忠勝。わしは今清々しいのだ。人間50年と考えれば、あと12年か。わしは、1部将として、いや、兵卒でもかまわんなぁ。飛将、本多忠勝の後ろを駆け続けたいものだ」
忠真は空を見続けている。忠勝も空を見上げた。
先ほどの鳶はもう居なくなっていた。代わりに、雁の群れが列を為し、秋空の一部のように、鱗雲の中を飛行していた。
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