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「っ」
薄れゆく少女は目を見開いた。
辺りを一面に桜色に染め上げたと錯覚するぐらいの桜の花びらの乱舞。散りゆく運命のそれらが見せる幻のような現実は、儚いが故の力強さに満ちていて。
今まさに消えゆく少女へ、長年連れ添った相棒への桜からの贈り物としか思えない光景だった。
見開かれた少女の目から留め止めもなく涙が溢れてきている。
呆然と桜の散り様を眺めていた少女の耳元に声が聞こえた。
「ありがとう、ごめんね、……じゃあ、また、いってらっしゃい」
初めて自身に向けて掛けられた声。聞こえているのに聞こえない、不思議な声。フルリと少女の身体が震える。
少女はそれに対して応えようと口を開き
「ありがとう」
にっこりと満足そうに笑った。
桜の花びらが少女を丸く包み込むように覆う。
その隙間で、笑顔は浮べられた途中から空気に溶けるようにして消えていった。
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