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「右目、右耳、口、鼻、顎、……あと何処が残っているんだろう」  哀しそうに、しかし優しく少女は微笑を浮べる。  少女が摘んでいた花びらを離す。風に乗せてひらひらと舞っていくそれを眺めながら、ゆっくりとした動作で片手の包帯をもう一方の手で解いていった。シュルシュルという衣擦れの音が静かに立つ。 「……」  解いた後には何も《ない》。  少女は部位が元々あったであろう場所をなぞるようにしながら呟いた。 「私、どうなるんだろう」  哀しそうに潤む瞳とは対照的に口許は乾いた笑みを浮べていて。 「消えちゃうのかな」  瞬きした拍子にその目じりから堪えきれなくなった涙が一粒零れ落ちた。柔らかな春の陽光が反射して儚く光る。 「消えるのなら、意識もなくなってくれるのかな」  もう一粒、零れ落ちる。  そこに宿るのは喜色か悲哀か。 「ねぇ」  もう一粒。 「あぁ」  もう一粒。  ぽろぽろと涙は留まることを知らず。慰めてくれる人もいない少女は自身の身体をかき抱いて嗚咽を漏らす。 「淋しいのは嫌だよ。寂しいのは嫌だよ。なんで私、ずっと一人なんだろう」  頼りなげに小さな肩が震える。  もう消えてしまいたいと思っていた。  でも消えたくないと考えていた。  独りは嫌と嘆いていた。  独りを気ままなものと強がっていた。  誰かの傍にいたいと願っていた。  そんな人はいやしないと理解していた。  誰かの記憶に残りたいと祈っていた。  やはりそんな人はいないとわかっていた。  泣いていたって慰めてくれる人などおらず、今年も昨年も一昨年もそのまた前の年もずっとずっと、目覚めた時からこの桜の下で自分を自分で抱きしめていた。待てど暮らせど少女を抱きしめてくれる人など訪れるはずなどないのに。  ここに来る人たちのふれあいを、横からただただずっと見ることしか出来なくて。入り込めないそのあたたかな空間には少女の居場所はなくて。自分の境遇を恨みたくても誰にそれを言ったら良いのか。苦しい、悲しい、淋しいという感情だけが増幅していって。 「もう」  涙で顔をぐちゃぐちゃにした少女の輪郭がぼんやりと滲む。  後ろの景色が薄っすらと透けて見えた。  それは少女の一部が透明になって欠落していく前兆。  残る少女が欠落していく前兆。 「消えちゃいたい」  涙が頬を伝い、ぽたりと滴り落ちて。  その刹那、強風が吹く。
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