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「契、どうしたんだ。またぼーっとしているみたいだけど」 開かれたトランクの向こう側から、呼びかける声がする。 「あ、ごめん」  慌ててそちらのほうへ向かうと、ちょうど、真琴が中から七輪を取り出しているところだった。行きがかりにホームセンターで買ってきた、練炭とセットになっているこじんまりしたサイズの七輪。トランクの中には、その他にガムテープやら薬やらが転がっている。 「俺はこっちの準備をしておくから、先にガムテープを頼んでもいいか?」 手渡された茶色いテープはひんやりと冷えていた。 「わかった、やっておくね」  平たい円柱にまとめられた、こんなもので自分たちは窒息死の可能性を高めるのかと思うと、喉元から笑いが込み上げてくる。なんだか愉快な気分だった。  車内に戻り、助手席以外のドアというドア、窓という窓を、丁寧に丁寧に四重ぐらいに目張りしていく。びびびびと、ガムテープを剥がして貼り付けていく音が妙に心地よくて、ついつい作業に鼻歌が混じった。 「ずいぶんとご機嫌だな。こっちの作業は終わったぞ」  不意にした声に首を回転させる。  開け放したままにしておいた助手席側のドア、七輪を抱えた姿が見えた。 「あれ、早いね。もう少しかかると思ってた」 「まぁな。火をつけるだけだしな」  ちょっとどけ、と真琴が低く囁く。  運転席のほうへ退くと、身を縮こませた契の横を、七輪が通っていった。ふわりと煙たい匂いが鼻先を掠める。ずいぶんと軽い死の匂いだった。 「睡眠薬って、意外と効き目が遅いんだね」  真琴はいつもより、少しだけぼおっとしているようだった。 「……そうだな。準備を始める前に飲んでおいて丁度よかった」  口では冷静なことを言っていても、もしかしたら、睡眠薬が回り始めているのかもしれない。水で飲み下したのは自分のほうが後だったから、順番通りといえばそうだが。  
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