第一章 はじまり

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第一章 はじまり

呼吸の乱れが神経を逆なでするように、ラルフは憤りに似た感情を抱き続けた。 どうしてこんなことに? 彼は同時に、日常の時分を思い描いていた。本来ならば今頃、つまらない授業に退屈して居眠りでもしているだろうか?それとも昼飯を? どちらにせよ、今の状況より幾分もましであるのは確かに思えていた。 それでも彼は背中の荷物を落とすことはない。 だがぜえぜえともらす喘ぎは喉に張り付き、手足に微かな痺れさえ感じ始めた。 そこでようやく足を止めると、辺りを見回した。目に入るのは木ばかりで人工物はなく、山間深くに居るようで周りに動く物の気配もない。ラルフはホッとするが、自分の起こした行動を思い返して慄き、そしてたじろぐように身を震わせた。 「……うう…」 そのとき、背負った人間から発させられる微かなうめき声に気づいてラルフはビクンと身を硬直させた。それからそっと荷物を背中から下ろして地面に横たえた。 人間はゆっくり目を開けた。 「……ここは?」 その目は空よりも先に、ラルフのことをまず目に入れた。 「大丈夫か?」 「……あなたは?ここはどこ?」 人間の少女は上半身を起き上がらせようとする。 途中で表情を歪め、苦痛へ喘ぐように「……痛い」と声を漏らした。 ラルフは看護するように傍へ反射的に屈んだ。そして支えるように手を背中に当てる。 「だ、駄目だって、怪我しているんだから」 「……おかあさん、ねえ、おかあさんは!?」 人間は苦痛にゆがませた顔を振り払って半身を起き上がらせると、ラルフに掴み掛かって訊ねる。ラルフはすぐに顔を逸らす。先ほどの光景を想起するが、直接口にすることは躊躇した。
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