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人間「見つかる前に、この子を、どうかお願いします……」
女はか細い声でラルフを見ながら決して目を逸らさずに言い、息絶えるように倒れ込んだ。それまでの間、迫力へと圧倒されたようにラルフはその女から一瞬たりとも目を逸らすことはできず、初めて出遭った人間の言葉を一字一句しっかりと聞き取っていた。
ラルフ(この子をお願いします?)
倒れた女の背中には、同様の見た目をした未知の生物。しかし倒れた方より体のサイズは少し小さい。
ラルフ「この子っていうのは、これのことか?」
ラルフは背負われていた人間の少女に目を向ける。そして少女の顔へと、自分の顔を慎重に近づけた。口元から微かな呼吸音を聞き取る。
ラルフ(息をしているということは、まだ生きているのか?けど、俺にいったいどうしろっていうんだ?)
「おおい誰かいるのか?」
すると背後の方から響く声。ラルフは驚いて振り返る。
ラルフ(きっと救助の者たちだ)
どうしよう?ラルフの心に渦巻いた疑問はしかし同時に、彼を理不尽に動かした。
次にラルフはすぐさま少女を背中に担ぐと、四本足ですぐさま駆け始めた。
ラルフ(くそっ!俺は一体なにをやっているんだ?もしこの未知の生物が、さっきの襲撃の一味だとすれば、俺もテロリストの仲間入りだ!だったら、一刻も早くこれを捨てなければ……)
だがそのとき、頭の中では、先ほど聞かされた言葉が何度も蘇る。
“この子を、どうかお願いします…”
ラルフ「…くそっ!くそ、くそ、くそ……」
呟きながら、ラルフは走り続ける。一人の少女を背負いながら。
雑木林を駆けて行くラルフの姿。次第に小さくなっていく。
ナレーション:ラルフ「十五回目の誕生日は、これまでのどの誕生日よりも刺激的だった。それはとんでもないプレゼントをもらう羽目になったからでもあるけど、そのことに後悔はしてない。だって、これが俺とユキの出会いであって、そして俺にとっての世界の終わりの始まりで、そしてユキにとっての世界の始まりだったからだ」
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