第1話「抽出と試行」

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「あとは、今は私たち人工知能が管理しているからあなたたち人類は働かなくて、も、いいわけよね」 「うん」 「旧時代にはよく見られたことだけど、人間は家畜だけではなくて、ネズミとか、イヌとかネコを自分の家で育てて管理していたのよ」 「うん、知ってる」 「野生ではネズミは砂漠を夜じゅう移動したり、ネコは狩りをして自分でエサをとる必要があったののね」 「うん」 「人間の管理下においても、つまり、長距離の移動をしない環境、エサが勝手に出てくる環境にあっても、ネズミはランニングマシーンを使って走ったり、ネコは狩りの練習や実際に狩りをしたりしていたのよ」 「へえー」 「そしてそれがストレスの解消になっていたのね。つまり、かならずしも何かカロリーを消費する活動は必要にかられて行うというわけではなくて、やりたくてやっているという面もあると思うわ」 「ふーん」 「モンテカルロ法(律)のコンセプトは、ダーウィンという人の進化論を大本にしているわけだけど、私たちは最大限すべての人類を生存させているから、自然界のような選別は行われていないのね。一方で、ラマルクという人の論は、キリンの首が長いのは先祖代々首を伸ばそうと望んできたからだという、意思の要素が入りうるような……」 「わーわーわー、オーバーフローオーバーフロー」 人工知能は、何でも知っていて、そして人間の知的好奇心に対して最大限誠実に答えようとする。マスコットも各々パーソナリティのばらつきがあるのだけど、ランちゃんはこういうときちょっと暴走するようなところがある。 難しい話になってくるとよくわからないけれど、ランちゃんが両親のことを運命的、と言ってくれたのにはなんだか嬉しくなった。あの魚屋さんの、配偶者を自分で選択したということはとっても素敵だと思ったけど、私の両親も仲良く暮らしていて、それも素敵だし、八百屋さんみたいに楽しく働いているというのも素敵に思った。良い気分だ。
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