第1話「抽出と試行」

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家に帰る途中、天窓の下の公園を通る。 この街の空は実際には宇宙移民艦の天井スクリーンに映されている映像だ。唯一、この天窓と呼ばれている、直径約50mの超硬質で透過性が高いガラスから覗ける宇宙が、自然の空だった。 天窓から見える宇宙が好きだ。あの真っ黒さは、頭を休める時に目を瞑って見る黒と同じで、心が休まる気がする。それでいて、夜になって街が暗くなれば星がよく見えるようになる。 天窓下の公園は人気スポットで、この時間も人が結構いる。もうそろそろ帰るんだろうけれど走ってじゃれつきあっている子どもたち、芝生に寝転がっている人、散歩しているおじいさん、赤ん坊が乗っているだろうベビーカーと夫婦……夜に、この空間を独り占めできたときも特別幸せな気持ちにはなったけれど、今のようなたくさんの人と共有している気分も好きだ。 お父さんもお母さんも待っているだろうし、はやく帰ろう。 すると、突然、大音量でサイレンが鳴った。 続けて、ポン、というポップアップ音が周囲で一斉に重なって鳴り響き、マスコットを表に出していなかった人たちのマスコットが一斉に姿を表した。 「ランちゃん、一体何!?」 「まだわからない。非常事態ということだけ」 周囲の人たちも困惑してざわついている。サイレンは相変わらずうなりつづけている。 こんなことは初めてだ。サイレンなんて、旧時代の、人類が地球に住んでいた頃の災害の記録映像の中で鳴っているのを聞いたことがあるだけだ。
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