第1話「抽出と試行」

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「あっ、紙のお金だ!歴史の教科書で見た」 「そうそう。プリントしたやつだけどね」 紙にはヒゲを生やしたおじさんの絵が書かれている。 「よーし、じゃあご要望の野菜一揃えで840万円ね」 おじさんが野菜の入ったカゴを置く。 「え?え?」 「そしたらそれを、はいじゃあ1000万円、と言って俺に渡す」 「え?1000万円?」 おじさんが笑いながら早くやれと手まねきで指示している。 「は、はいじゃあ1000万円……」 「あいよ、それじゃあお釣りの160万円だ!」 紙幣を受け取ったおじさんが代わりにじゃらじゃらっ、と私の手に何かを乗せた。 「おおー、コインだ……」 「そうそう、それもプリンタで作ったんだけどね。昔は実際にそのお金でやりとりしてたんだから、当然勝手に作ったらダメだったらしいけど」 銀のやつ、穴の空いたやつ、茶色いやつがある。 「好きなやつを一枚あげるよ」 「え、ホント?ふーん、どれがいいかなあ」 まあ、どれでもいいといえばどれでもいいのだけれど。それぞれに異なる数字と意匠が彫られている。 「じゃあこれにする」 10円だろう。1、0、それぞれがひとつずつ書かれている。反対側には建物が彫られた、茶色のコインだ。 「お、それでいいの?それが一番安いよ?こっちの銀色の方が高価なのに」 「うんまあ、これがいいかな。ありがとう」 もらったコインをポケットに入れて、野菜の入ったカゴを持つ。 「あ、待って、お嬢ちゃん可愛いからしょうがない、これもオマケしちゃおう」 そう言っておじさんがショウガをカゴに入れてくれた。 「え?えへへ、ありがとう」 「これもね、旧時代にはよくあったやりとりらしいよ」
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