105人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのね、この人は配偶者を自分で選択したのよ」
おばさんが笑いながら言う。魚屋さんは帽子を目深にした。
「え、え、え」
魚屋さんとおばさんを交互に見比べてしまう。
配偶者は、子供、要は進化への影響が大きいからモンテカルロ法(律)で決まる。ほとんどの人がランダムに決められた配偶者と暮らしている。あたしのお父さんとお母さんもそうだ。だけど、人工知能で決められた相手ではなくて、自分たちで選んだ、恋に落ちた相手と暮らしたいという人たちも稀にいる。
「へええー、そうなんだあ」
魚屋さんはなにも言わない。
「だから私も義務で仕事をしているし。まあ、仕事は好きかっていうと、なんとも言えないけど。でも好きな人と一緒にいられるならね」
そういっておばさんが魚屋さんの肩に手をかけた。
「へええー」
ただただ感嘆する声が出る。
「べ、別にこの仕事だって好きじゃないってわけじゃないさ」
魚屋さんがボソッとだけど喋った。
「仕入れるだけじゃなくて釣りに行ったりもするしな。結構面白いぞ、釣り。このアジも釣ってきたやつだ」
「へええー、じゃあそのアジをください」
魚屋さんがアジと保冷剤を袋に入れる。
「お金払います」
「……へえ、はい、毎度」
この会話で、データとしては資金のやりとりがなされている。
最初のコメントを投稿しよう!