第1話「抽出と試行」

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「あのね、この人は配偶者を自分で選択したのよ」 おばさんが笑いながら言う。魚屋さんは帽子を目深にした。 「え、え、え」 魚屋さんとおばさんを交互に見比べてしまう。 配偶者は、子供、要は進化への影響が大きいからモンテカルロ法(律)で決まる。ほとんどの人がランダムに決められた配偶者と暮らしている。あたしのお父さんとお母さんもそうだ。だけど、人工知能で決められた相手ではなくて、自分たちで選んだ、恋に落ちた相手と暮らしたいという人たちも稀にいる。 「へええー、そうなんだあ」 魚屋さんはなにも言わない。 「だから私も義務で仕事をしているし。まあ、仕事は好きかっていうと、なんとも言えないけど。でも好きな人と一緒にいられるならね」 そういっておばさんが魚屋さんの肩に手をかけた。 「へええー」 ただただ感嘆する声が出る。 「べ、別にこの仕事だって好きじゃないってわけじゃないさ」 魚屋さんがボソッとだけど喋った。 「仕入れるだけじゃなくて釣りに行ったりもするしな。結構面白いぞ、釣り。このアジも釣ってきたやつだ」 「へええー、じゃあそのアジをください」 魚屋さんがアジと保冷剤を袋に入れる。 「お金払います」 「……へえ、はい、毎度」 この会話で、データとしては資金のやりとりがなされている。
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