剣の星のクーパ・ルー

10/39
前へ
/39ページ
次へ
 水晶樹の幹を駆け上がり、枝を飛び移り、葉を蹴って。まるで飛翔しているかのような跳躍を重ねて、剣士たちは《ヨドミ》の群れへと斬り込んでいった。各々が個性あふれる《剣》を手に、鍛え抜かれた力と技を振るう。《ヨドミ》を水晶の肉体ごと断ち切り、闇の色を消し飛ばす。森の上層で開かれた戦端は、血みどろの空中戦となって展開していった。  気付けばクーパ・ルーは、戦場の直中に居た。乱戦だった。多くの血が流れ、多くの死が訪れていた。 「おじさん?!」 「気にするな少年。どうせいつか死ぬのだ、子どもを守って散る最期というのは……悪くない!」  髭面を歪ませて、クーパ・ルーをかばった大男は太い笑みを浮かべた。《ヨドミ》に貫かれた胸から溢れた血が水晶樹を赤く染める。 「《剣》が……死ぬ……」  クーパ・ルーの見詰める先で、大男の握り締めた《剣》が水晶化していく。死を迎えた《剣》の末路。多くの《剣》がその運命を辿るように、男の《剣》もまた、水晶樹の一部となって森へ融けてゆく。 「走れ少年! 振り向かず、走れェッ!」  血と共に吐き出された男の叫びを、クーパ・ルーは受け止めた。自分の命が今まで、どのように守られてきたかを理解した。  走る。今はそれしかできない自分に涙を流し、それでもクーパ・ルーは走った。無力を知り、それでも護りたいと願った、大切な人の居場所へと。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加