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四
駆けつけた、魔法少女の眠る場所。この戦場の中心。
そこにいたのは、一体の《ヨドミ》。
その《ヨドミ》は、ヒトの姿をしていた。水晶の肉体を変形させ、ヒトのカタチを模していた。
手にしているのは、水晶化したばかりの《剣》。透明な刀身の中に闇色の炎を灯す、《ヨドミ》に汚染された《既死の剣》だった。
人型の《ヨドミ》の、顔の無い顔が魔法少女を見上げていた。
「その子に近づくな……!」
涙の跡もそのままに。クーパ・ルーは木刀の切先を《ヨドミ》へと向けた。
『《ツルギ》ニ使役サレル有機ろぼっと風情ガ……』
《ヨドミ》が言葉を発したことに、驚きは無かった。憎悪、嫌悪、嫉妬、劣等感、ありとあらゆる負の感情を、意志を、クーパ・ルーは《ヨドミ》から感じていた。
この場所を護っていたはずの女剣士は、《ヨドミ》の足元に倒れ伏していた。まだ息がある。《剣》の水晶化も始まってはいない。だが、戦士としての敗北は明らかだった。
『諦メヨ。抗ウナ。我ラヘト還リ安寧ヲ知レ』
《既死の剣》の切先を、《ヨドミ》は女剣士へと向けた。木刀を握ったクーパ・ルーの両手が、力み過ぎて小刻みに震える。
ふと、自分の腕に誰かの手が触れたように感じた。
ひんやりとして、でもやわらかい。心地良い、指先の感触。そこに無いはずの、誰かの手。
大丈夫、と。耳元に囁きかける澄んだ声もまた、幻聴なのか。クーパ・ルーの瞳が水晶の中の魔法少女へと引き寄せられる。その微笑みが、口元が、微かに動いたように思えた。
「うん、大丈夫……!」
クーパ・ルーは《ヨドミ》を見据えた。深く息を吸い込み、そして腹の底からゆっくりと吐き出していく。手の震えが、止まった。
『平穏ハ我ラノ内ニコソ、在ル!』
闇水晶の刃が、女剣士の首筋へと振り下ろされる。だがそれよりも速く、クーパ・ルーの両脚は地を蹴っていた。
受けるのではなく、流す。クーパ・ルーは《ヨドミ》の斬撃に木刀を当て、その太刀筋を僅かに反らしてみせた。
「ただの木刀でも、護るくらいはできる!」
叫びと共に、クーパ・ルーは全身を人型の《ヨドミ》へと叩き付けた。傷つけることはできない、だが女剣士から引き離すことには成功した。
吹き飛ばされた《ヨドミ》は、空中で不定形の姿に輪郭を崩したと思うと、何事も無かったように地面に立つヒトのカタチへと変形した。
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