剣の星のクーパ・ルー

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『良イ腕ダ。度胸モ有ル。ダガ……』  《ヨドミ》が埃を払うような仕種を見せる。人外の挙動の後に見せるヒトを模した動作は、揶揄と白々しさに満ちていた。 『足リナイ。足リナイナ。……『力』ガッ!!』  吼え、その一呼吸で距離を詰めて、《ヨドミ》は斬り込んできた。速く重く容赦の無い斬撃がクーパ・ルーを襲う。顔の無い顔が、クーパ・ルーに迫る。  反応が間に合わない。《ヨドミ》の一撃を防ごうとして、木刀が砕け散った。斬り裂かれた胸から血が噴出す。焼けるような衝撃と、魂を吸い出されるような寒気が、身体の芯を貫いて走る。  紙一重。斬られる瞬間、僅かに下がったその一歩で、クーパ・ルーは命を繋ぎとめていた。だがそれだけだ。《ヨドミ》を止める力が、今の少年の手には無かった。脚が、もつれる。  《既死の剣》の切先が、跳ねた。斬り返した二の太刀が追いすがり、クーパ・ルーの首へと走る。  覚悟をする間も無く、クーパ・ルーは己の死を理解した。避ける余力は無い。折れた木刀の柄を握り締めたまま、クーパ・ルーは無念に瞳を閉じた。 「───大丈夫です」  その声は、はっきりと聴こえた。唄うような、励ますような、澄んだ明るい声。  柄を握る手首に凄まじい衝撃が走った。クーパ・ルーは眼を見開く。折れた筈の木刀が甦っていた。いや、木刀に加工される前の、堅い木の枝へと再生していた。それが《既死の剣》を受け止め、クーパ・ルーの命を救ったのだ。  木の枝に宿った淡い魔力の残り火が、クーパ・ルーの瞳を照らし、そして消えた。 『コレハ、魔法少女ノ加護、カ……?』  《ヨドミ》が漏らした呟きは、しかしクーパ・ルーには聞こえていない。血を流し過ぎていた。既に、意識の殆どが途切れかけている。  力尽き倒れ、クーパ・ルーは自らの血に身を沈める。傷の修復は始まっているが、追いつかない。意志を離れた肉体は重く、立ち上がることもできなかった。  それでも。それでもと。クーパ・ルーは手を伸ばしていた。霞む視界の先、水晶の中の魔法少女へと。
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