剣の星のクーパ・ルー

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五  夜が明けていた。風は再び戻り、戦いに傷ついた森を癒していく。鉄巨人が息を吹き返し、軋みを上げながらゆっくりと風車を回してくれていた。  クーパ・ルーの胸の傷はほぼ塞がっていた。けれど引き連れるような痛みは、まだ消えてくれない。  水晶樹の中の魔法少女は、今も眠り続けている。けれど、ひび割れた水晶樹は《ヨドミ》の魔手が少女の喉元に触れかけた痕跡を色濃く刻み、好きになった女の子が永遠に失われていたかもしれないという恐怖をクーパ・ルーに思い知らせた。  空には弔いの唄。姿を消した大人たちの、歌声だけが森の中を流れていく。命を賭して世界と子どもたちを護った人々の名前を、クーパ・ルーは知らない。  たった一夜の出来事たちは、傷の痛みと共に、クーパ・ルーの胸の奥へと深く刻まれていた。  朝の日差しを背に浴びながら。クーパ・ルーは自身の背丈の五倍はあろうかという長大な刀身を見上げる。  クーパ・ルーは自分の小さな手と、大きな《剣》の柄を見比べて、途方に暮れた。これでは《剣》を振るうどころか、握ることすらできない。 「ぼくには大き過ぎる……」 「けれど間違いない。これは君の《剣》だ」  そう言って、女剣士はクーパ・ルーの左腕、そこに記された紋様に触れた。眼前の巨大な剣にも、全く同じ意匠の紋様が刻まれている。  女剣士の負った傷は、クーパ・ルーよりも大きく深い。暫く《剣》は握れないだろう。それでも彼女は気丈に背筋を伸ばし、クーパ・ルーの隣に立ってくれていた。手には一本の木切れが握られている。昨夜クーパ・ルーの命を救った、あの木の枝だ。 「まぁ、確かに大き過ぎるな。これほどの《剣》を見たのは、私もまだ二度目だよ」  小さなナイフで木切れを削りながら、女剣士は苦笑した。 「一度目は?」  僅かな沈黙を感じ、クーパ・ルーは女剣士の横顔をそっと覗き見た。  女剣士の瞳は、どこか遠くを視ていた。ここではない、今ではない、どこかを。
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