剣の星のクーパ・ルー

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「私の古い友が、それに出逢った」  風の丘へ顔を向けたまま、女剣士はぽつりと呟いた。  その吐息に、熱量の残滓を感じ取り、クーパ・ルーは師もかつては自分と同じ子どもであったのだと今更に気付いた。  クーパ・ルーは魔法少女の水晶に近付き、手を延ばす。けれど冷たく綺麗な水晶に遮られ、悲しいほどに届かない。触れたくても、抱き締めたくても。想い人と自分の間にある距離は、泣きたいほどに。 「遠いね。こんなに近く見えるのに、とても、とても遠いんだ」  けれど、と言葉を切って。クーパ・ルーは女剣士を真っ直ぐに見詰めた。 「先生、この大きな《剣》をぼくが振るえたなら、この大きな水晶樹を斬ることもできる?」 「まだ彼女を求めるかクーパ・ルー? 昨夜の戦いを経ても、まだ」  女剣士の瞳は、今はクーパ・ルーに向けられていた。否定も肯定も無く、ただ真っ直ぐと。 「同じ時を過ごしたい。それが、ぼくのわがままだとしても。命の終わりを感じた、今だからこそ」  そうか、と。女剣士は黙り込んだ。そしてまた、木切れを削る。時折バランスを確かめ、空へかざしてもみる。  静かな時間が、過ぎてゆく。丘の向こうに見えていた太陽が、空へと昇っていく。鉄巨人の影もまた、それに連れて大地に時を刻んでいった。 「風の丘の鉄巨人。その物語を、君は知っているかい」  物語の中から語りかけられるような、それは不思議な声だった。 「この星の風が止んでからずっと、ぼくが生まれる前から、風車を回し続けている機械の巨人……かつて《ヨドミ》と戦った勇者でもあるって」 「彼は元々、ヒトだった。いや、少年だったというべきか」 「だった……?」 「恋をしたのさ。今の君と同じように……届かぬ花に手を伸ばし、伸ばし続けて……そして、折れた。朽ちるまでの時をただ待つだけの、錆びた鉄に成り果てた」  それでも、と言葉を継いで。女剣士はクーパ・ルーへ視線を流した。 「まだアイツは忘れられずにいるのだろうな。《創星の魔法少女》に出逢った瞬間の、ときめきを」  ナイフを操る女剣士の指先が僅かに乱れ、艶やかだった木材の表面に微かな傷を刻んだ。
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