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「クーパ・ルー。君にはいつも心を乱される。けれど不思議だね。私の《剣》はそんな私の未熟を喜んでいるようなんだ。いや、この大きく揺れる心の動きこそを《剣》は望んでいるのだろうな……」
鞘に納まる《水鏡の剣》を慈しむように撫で、そして女剣士はクーパ・ルーにもその愛情を向けた。
「かつては《剣》にも心があった。けれど失われた。それを補うために創られた我らは、強い情動を抱いて生まれてくる。……そして君のそれは特別に強い。喜びの後に訪れる静寂は……辛いぞ?」
「この傷よりも?」
「どんな傷よりも」
「治り難い?」
「癒されることなど無い。ただ忘れたふりをするだけさ」
「……それでも」
「それでも、喜びよりも遙かに多くの苦しみが待っているとしても。それでも行くのかい、クーパ・ルー?」
それでも、と。決意に頷く少年の瞳。女剣士はそれを誇らしげに見詰めてくれた。
「君は風だよクーパ・ルー。心に吹く風だ。感動を忘れ日々に磨耗していく我らの心を洗い流す、やんちゃな旋風だ」
ナイフを《剣》の柄へと仕舞い、女剣士はクーパ・ルーへと向き直った。
「すまない。ありがとう」
女剣士は、その柔らかな胸にクーパ・ルーの額を抱き締めた。
「まだ子どもだった君を護りきれなかった私の弱さと、それでも生きて旅立ってくれる君の強さに」
女剣士は、クーパ・ルーの手に出来上がったばかりの木刀を握らせた。
「さぁ行くがいい、クーパ・ルー。鉄巨人の下へ。彼の空虚な心に、風を届けられるかもしれない。……君なら」
ひとつになったふたりの影は、離れ、そして見送る者と旅立つ者へと別れた。
それぞれに誓った、強さを胸に。
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